顎関節症について

「顎関節症」ってどんな病気?

みなさんの中にも、「口を大きく開けられなくなった」「あごが痛い」「口を動かすとあごに音がする」といった経験のある方がいらっしゃると思います。
そのような、あごの関節や筋肉の症状を総称して「顎関節症」といいます。

ある調査によると、アメリカでは人口の約40~75%が「顎関節症」の症状が少なくとも一つあるという結果があります。従来、これらの症状を有する人が医療機関を受診すると、そのうちの75%もの人が何らかの治療を受けていました。しかし、疫学研究の結果、本当に治療が必要であったのは、これらの患者のわずか3~7%だけだろうということが明らかになり、過剰治療が問題になりました。

アメリカでは、アメリカ口腔顔面痛学会(AAOP)が顎関節症の科学的に根拠のある研究をまとめ、その原因や診断、治療法が整理されています。
ところが、それは、日本で広く出回っている書籍やインターネットの「顎関節症」の情報とはかなり大きく食い違ったものでした。今回は、AAOPの認定医の先生による顎関節症の本からご紹介します。

顎関節症を治療する理由は?

顎関節症は放っておいても自然に治る!

顎関節症は、放置しても3分の1は自然に症状が消失します。
過去の論文を見ると、どの治療法でも成功率は75~90%と高い数字が報告されています。
治療によって症状が「治った」現象には自然に治ったものや、説明を聞いただけで良くなったり、プラセボ効果やホーソン効果(患者さんが医師の期待に応えようとして早く良くなるように努力すること)などが含まれています。治療を受けて治ったとしても、その治療の効果は水増しされたものです。

それでは、放っておいても治るのになぜ顎関節症の治療をするかというと、治るまでの間、口が痛くてものが食べられないなどの不便を強いられる期間を短くするために治療します。

ですから、その方法はできるだけ患者さんの体や費用の負担がかからない方法が望まれます。
多くの歯を削って保険外のかぶせ物をする、矯正治療をする、といった方法は高価な治療費がかかる上に元に戻すことができません。
そして、再発しないようになるとは言えないのです。不必要なリスクも高めてしまいます。

その一方で少数ながら全く治療が奏功せず、何年にもわたって通院を続ける「難治性顎関節症」患者さんがいることも分かってきました。それらの症例を分析すると、そもそも「顎関節症ではない、似た症状の病気」や「顎関節症プラスα(頭痛や心理的な問題の併存)」であることが多いということが判明しました。
痛みが慢性化して難治になっている患者さんでは、痛みの主座が脳の中枢に移行していること、中枢で痛みが増幅されている可能性があることも分かってきました。
この場合、従来の筋や関節に対する治療はほぼ無効であり、中枢に対する治療を行わなければなりません。
頭痛を併発している場合、頭痛の鑑別、脳血管障害、脳腫瘍などの可能性を神経内科医や脳外科医に、全身の関節痛がある場合リウマチ性疾患をリウマチ専門医に、外耳炎の可能性は耳鼻科に、精神疾患は精神科医に診てもらうことがあります。

顎関節症は多因子性疾患

ベンゾジアゼピン系の薬は、不安や不眠によく効くので、日本では非常によく使われていますが、国際的には「毎日使ってはいけない薬」「2週間以上連用してはいけない薬」というのが常識です。
ベンゾジアゼピン系の薬には少ない量でも依存性、耐性があります。
ベンゾジアゼピン系の薬自体には鎮痛効果はなく、痛みによる不安や落ち込みをごまかしているに過ぎません。
むしろ血中濃度が下がると痛みが憎悪するなど、痛みの治療の妨げになることが多いので、治療開始と同時に減量・中止します。
ベンゾジアゼピン系薬剤には、デパス®、セルシン®、ホリゾン®、ソラナックス®、コンスタン®、メイラックス® などがあります。

難治性にしないためには

顎関節症は単一の原因によって起こるのではなく、いくつかの条件が重なってその人固有の耐久限界を超えたときに発症します。それには次のようなものがあります。

歯ぎしりや噛みしめの習慣、頬杖、猫背などの姿勢、精神的ストレス、あごの酷使、暴力的な大開口、歯の治療などにおける長時間の開口、急激な咬み合わせの変化、打撲など

治療においては患者さんにそれをよく理解してもらって、再発しないように自己管理してもらう必要があります。
温めたり、マッサージしたり、あごを動かす練習をしてもらいます。自分で毎日家庭で行うのが効果的です。
日常ではあごを安静にして大開口を避け、軟らかい食事を摂ってもらいます。

日中の噛みしめや姿勢の悪さ、体にいつも力が入っている場合はよくそれを認識し、意識的に止める努力をしてもらいます。

「唇を閉じて、歯を離し、顔の力を抜く」ことを思い出してもらいます。

痛みがあれば慢性化しないように鎮痛剤を飲みます。
これらの治療で9割の患者さんは治りますが、病悩期間が6カ月~数年と長い、激痛がある、患者さんが日常生活に支障をきたして疲弊している、他に多くの症状がある、長い間さまざまな施設を転々としている、というような場合には初めから専門医がいる施設を受けられた方がよいでしょう。

噛み合わせは顎関節症とほとんど関係がない

咬み合わせが顎関節症の唯一の主要な原因と考えることはできません。
咬み合わせがどんなに悪くても顎関節症にならない人はたくさんいます。

人間の関節や筋の外力に対する適応力は高く、特に変化がゆっくり起こる場合にはかなりの悪条件でも生体は適応することが出来ます。上下の歯が接触するのは、ものを食べる最後の瞬間と飲み込む時だけで、トータルすると一日のうち15分あまり。

それ以外の時間は本来上下の歯は離れているので、咬み合わせそのものが存在しません。
15分の間に過重負担が起こるとは考えにくいのです。しかし、それは、歯の治療において咬み合わせが重要ではないという意味では全くありません。
悪くなった歯を治療して長持ちさせたり、インプラントをする上で咬み合わせは非常に重要です。
また、「咬み合わせが全身の健康に悪影響を及ぼす」という説を支持する科学的な根拠はありません。

とにかく顎関節に違和感を感じたらいちはやく歯科医院に行かれることをおすすめします。

Copyright © Muto All Rights Reserved.